内容説明
「背教者」と呼ばれるユリアヌスは、コンスタンティヌス大帝の甥として生まれながら、幼くして両親を失い、孤独で幸薄い幼少年期を生きた。そのユリアヌスが、数奇な運命によってローマ皇帝となった。本書は、文学・哲学を愛する青年だったユリアヌスが突然帝国政治のただ中に放り込まれ、逸脱を繰り返しながらも伝統宗教の復興や対外遠征などの課題に立ち向かったその姿を追いながら、後期ローマ帝国の実相を描き出そうと試みる。
目次
「背教者」ユリアヌスとローマ帝国の運命
1 コンスタンティヌス大帝のローマ帝国
2 囚われの日々
3 副帝ユリアヌス
4 ローマ皇帝ユリアヌスの誕生
5 伝統宗教の復興
6 ペルシア戦線での悲劇
著者等紹介
南川高志[ミナミカワタカシ]
1955年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学、博士(文学)。専攻、古代ローマ史。現在、京都大学大学院文学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鐵太郎
19
異色のローマ皇帝ユリアヌスについての、宗教的な反キリスト背教者や、理想主義者で人徳者像や、その反動としての冷徹な機会主義者、などの解釈をすべて踏まえた上で、そのすべてを見直して平易に事実のみを追って描いた軽い伝記。ただし軽いのは分量であって中身は濃厚。そして説得力のある重厚さ。面白い。こんなユリアヌス像もいいね。2019/10/30
中島直人
16
(図書館)辻邦生さん背教者ユリアヌスの控えめで受け身なだけではない面に光が当てられていて、非常に新鮮に面白く読むことが出来た。ただ、ローマ帝国が生き残るには、コンスタンティウス二世の方が正しかったのかもしれない。分量は少ないが、実際に活躍し記録に残っている時間を鑑みると妥当かも。2018/10/20
組織液
10
時には悪魔の如き「背教者」、一方で悲劇の人物とも語られるユリアヌスを、基本的には狡猾な野心家として書いた評伝です。著者が同じ『新・ローマ帝国衰亡史』とかぶる部分もありましたね。にしても、不明な部分も結構あるにせよ、よくこんなに記録が残ってるなぁと感心してしまいました。キケロとかだともっと詳細に残ってるみたいですしね。ここら辺のローマ後期や古代末期についてはこれからも掘り下げていきたいです。2021/07/30
ふぁきべ
10
100ページ程度という少ない紙幅ながら、ただのまとめに陥っておらず素晴らしい。ユリアヌスは伝統宗教の最後の擁護者的な書かれ方をするが、実際のところ彼の信奉していた『伝統宗教』は必ずしもローマで広く受け入れられていた形の伝統宗教であったわけではなく、また彼がそれを復興させてようとしていたのがギリシャをはじめとする帝国東方だけであったなど、知らなかったことがたくさん出てきた。キリスト教化という当時の流れから『逸脱』するだけでなく、伝統宗教的に言っても禁欲的なユリアヌスは『逸脱』的であったということか。2018/11/11
ジュンジュン
8
「背教者」のニックネームがもれなくついてくるユリアヌス。この綽名を取り外して、4世紀のローマ帝国皇帝として眺めてみると、もしかすると歴史を変えたかもしれないポテンシャルを秘めた魅力的な人物だった。2020/10/10