出版社内容情報
『秋夜』『影の告別』『このような戦士』他二十一篇は様々なスタイルの短文から成るが,作者自身散文詩であるという.「絶望は虚妄だ,希望がそうであるように」.一九二○年代の苦しく困難な時期に魯迅はこのように書き記した.訳者は死の直前まで精魂こめて魯迅の改訳にあたった.本作品を魯迅文学の精髄として最も重くみる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
108
魯迅の散文詩集。読み手の心に食い込んでくるような強烈な表現が多くて、圧倒された。はっとするような美しいイメージに満ちた作品もあるのだが、それよりは時代と切り結ぶ精神を感じる作品の方が多くて、闘士の魯迅といった趣きがある。当時の中国社会に対する強い批判精神を感じるのだが、屈折した表現が使われていてやや分かりにくかった。血と汗で書かれたことが分かる暗く、重たい作品だった。2016/07/31
Y2K☮
47
魯迅にとって文学は「国家を革新する=国民の意識を変える」為の手段なのだろう。少なくとも太宰治の云う「無用の用」よりはダイレクト。でも堅苦しく説教する感じではなく、不器用に口籠りつつ熱弁を振るう質実剛健な文体はどこまでも誠実だ。どの作品にも当時の彼の祖国が甘んじていた状況への怒りや苛立ち、提言が仄めかされているが、一方で孤独や虚無に負けそうになる己への叱咤や名作「故郷」に連なる心の痛みを帯びた過去の記憶も素材にしている。「絶望は虚妄だ、希望がそうであるように」という戦慄の悟りは虚無と使命感のギリギリの妥協。2015/10/13
双海(ふたみ)
17
「沈黙しているとき私は充実を覚える。口を開こうとするとたちまち空虚を感じる」2014/07/01
不識庵
12
魯迅は自身を客観視できる人である。夢で見たと始まる「死後」。路上に横たわる自分は、意識は生きている。蠅が顔をなめ、くすぐったい。野次馬がたてる埃でくしゃみしたくなる等々。本作が上梓されたころ、中華民国は内戦状態にあった。この時期、孫文が世を去る。「まどろみ」では爆撃下の北京が垣間見える。散乱した書斎からポプラ並木を眺める魯迅は、死を意識しながら生も感じている。魯迅はゆるやかに泰然としている。客体の目を持つことと無縁ではないだろう。2018/02/14
みわーる
5
経年のためページが茶色になったのを、いまも大切に読み返している。いちばん好きなのは「凧」。詫びることさえ出来なくなった、子どものころの痛ましい罪。こころでひざまずく悲しみが哀れでいて、忘れ得ぬほど美しい。2019/06/03