出版社内容情報
山本タカトが、敬愛する鏡花の幻想世界に挑む。鏑木清方、小村雪岱ら名挿絵師の系譜に連なる平成鏡花本の極微! 全編描き下ろし!
【著者紹介】
1960年生まれ。91~93年にかけ〈浮世絵ポップ〉を試みる。91年〈浮世絵ポップ〉様式を発展・洗練させた〈平成耽美主義〉様式を打ち出し、耽美小説、幻想小説、官能小説、時代小説の挿絵の他、文芸誌や単行本などの表紙絵、広告用イラストを描いている。国際浮世絵学会会員。
著者等紹介
泉鏡花[イズミキョウカ]
明治6年11月4日生‐昭和14年9月7日歿。本名・泉鏡太郎。十六歳の時、文豪尾崎紅葉を慕って上京。その翌年紅葉に入門を許され書生として小説家を志す。「冠弥左衛門」でデビュー。以後明治後期から昭和初期にかけて活躍、一貫して江戸文学の薫りをたたえた多くの幻想的・審美的・伝奇的作品を書き続けたことで、近代における日本幻想文学のパイオニア的存在としても高い評価を受けている。生涯で小説、戯曲、エッセイほか三百篇余の作品を残した
山本タカト[ヤマモトタカト]
昭和35年1月15日秋田県生まれ。昭和58年東京造形大学絵画科を卒業。商業イラストレーションの仕事と並行しアート系ギャラリーで個展、企画展を開催。処女作品集は平成10年(1998)の『緋色のマニエラ』。以後耽美小説、幻想小説、官能小説、時代小説などの装幀画・挿画を中心に活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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yn1951jp
39
「人間の瞬く間を世界とする」魔界の女が唄う「芳しい清らかな乳を含みながら、生れない前に腹の中で、美しい母の胸を見るような心持ちの唄」、「たった一節の手毬唄の不在によって充たされた鏡花の小宇宙…その手毬が…丸やかな『母の乳房』にたどりつく、球体幻想の世界」(鏡花美学のディスクール、寺山修司1979)「幼い折時々聞いた鞠歌などには随分残酷なものがあって…この調節の何とも言へぬ美しさが胸に沁みて…こんな時の感情が『草迷宮』ともなり…」(予の態度、泉鏡花1908)2015/05/16
ひろ
27
これまで読んだ泉鏡花作品の中では難解な部類だった。場面が思いがけず転換したり、語りの中で状況が描写されたりと、話の筋を完全には追い切れていないと思う。それでも、ただの一文だけでも、類稀なる表現力に圧倒される。描写や比喩が重ねれられ匂い立つ、時の隔たりを感じさせない瑞々しさ。幻想的という言葉ひとつでは片付けられない奥行きと凄みがある。そこに山本タカト氏の絵が見事に合っている。思わず魅入ってしまう。よい読書体験ができた。2019/03/15
ぐうぐう
26
昨年、金沢にある泉鏡花記念館を訪れたとき、物販コーナーで一目惚れし、購入したのが本書。山本タカトの装画が素晴らしい。幻惑で妖美な鏡花の世界を、ものの見事に表現している。美しい鏡花の文体を補完し、溶け合った画に、まさに魅せられるのだ。かつて澁澤龍彦は「ランプの廻転」の中で「私が数多くの鏡花作品のなかでも、とりわけて『草迷宮』の一篇を愛しているのは、その作品全体が、なお廻転する迷宮のような印象を私にあたえてやまないからだ」と述べた。さらに澁澤はその出口なき迷宮を、退行の夢と称するのだ。(つづく)2016/02/08
芍薬
18
鏡花の文章に山本タカトの絵がつくこの贅沢さ!文章と挿絵のタイミングが完璧で、うっとりするような幻想世界に連れていってくれます。2015/02/03
さっちゃん
17
どうして人は妖しく哀しく美しいものに魅かれるのであろうか。それは昼の向日葵のようにあっけらかんとしたわかりやすいものではなく、月の隠れた一瞬のうちに取り拐われてしまうような、あっ、と声を出す間もなく深い奈落に突き落とされるような、逃れられない、底の見えないものである。何処から聞こえてくるのか、手毬唄とともに異界の者たちの気配がする。芋茎の葉を被った童たちが駆けて行く。流れるような言葉の連なり。夢とも現ともわからぬ。あな美しや、あな怖ろしや、鏡花の世界。ああ、うっとり。2015/06/27