内容説明
救援物資の横流し、麻薬の密輸から殺人事件まで、“神の名”のもとに行われた恐るべき犯罪の数々。日本の国際的な立場が弱かったために、事件の核心に迫りながらキリスト教団の閉鎖的権威主義に屈せざるを得なかった警視庁―。現実に起った外人神父による日本人スチュワーデス殺人事件の顛末に強い疑問と怒りをいだいた著者が綿密な調査を重ね、推理と解決を提示した問題作。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909‐1992。小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った
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感想・レビュー
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NAO
74
昭和34年に実際に起こった国際線スチュワーデス殺人事件をもとにした作品。布教のためならその国の法律に反したことをしても構わないという、神父たちの傲岸さ。だが、そういった身勝手さゆえに、彼らは裏社会のプロにがんじがらめにされていく。神父の破滅は自業自得だが、勝手に阿片密輸のコマにされそうになり、拒否したため殺されてしまった女性が可哀想すぎる。神父たちの罪を糾弾することなく簡単に国外退去させてしまった政府高官たちのいい加減さからも、時代を感じる。2019/11/27
hatayan
62
外国人神父とキリスト教団の関与が強く疑われながらもなぜか迷宮入りした1959年の日本人スチュワーデス殺人事件が題材。第一部は教団の内幕。麻薬を密輸させようとするも拒否した女性信者が黒幕の貿易商の指示を受けた恋仲の神父に口封じされるまで。第二部は捜査の内幕。事件の核心に迫りながらも政治的な判断で追及の手を緩めざるを得なかった刑事警察、過熱する取材合戦で事実に迫った新聞記者が登場。 無残な最期を迎えた被害者がとにかく不憫。戦後、外国の租界とさえいわれた当時の日本の立場の弱さを間接的に伝える内容となっています。2020/10/24
gtn
47
「偽善」ほど愚劣なものはない。その怒りが執筆動機であろう。贋物の宗教の見分け方を、著者はストーリー展開により示している。一つは、生理に反した無用な戒律を強いていること。そして、組織の中にヒエラルキーを設け、更に他人種を見下す等、差別感に満ちていること。最後に、"人間のための宗教"であるべきなのに、"宗教のための人間"に堕していること。著者の作品としては珍しく、因果応報の結末ではなく、悶々とする。2023/02/08
金吾
36
実際なあった事件をモチーフした作品ですが、国際的地位というよりも自国より他国に忖度する日本の弱点が表れているように思えました。被害者が不憫です。神父なのに罪に面せず逃げるということは事実ならば宗教とは何だろうと考えてしまいます。2021/12/31
誰かのプリン
28
宗教の傘の下、密輸のため外国の航空会社へスチュチュワーデスとして潜らせ、彼女達に麻薬等密輸させていた。被害者もスチュチュワーデスとして潜入させたが密輸を断ったのが原因で、口封じのために殺害されたと松本清張は観ている。当時の外国から見た日本は、敗戦国であり随分泣き寝入りした事件も多数有ったのでしょうね。2018/05/13