感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
28
愛とはなんでしょうか。そこには仁、人情、慈悲、性、恋などが含まれます。仁と性を、また慈悲と恋を同じ言葉で表しているのですから、簡潔な言葉で述べることはかなわないでしょう。しかしほとんどの人は漠然と愛は人間に必要だと言う思いは抱いていると思うのです。著者は一面ずつ光をあてながら、愛の本質を見つめていき、まるで球体であるりんごを面に解体した後に再構築して、りんごの美しさを知らしめたセザンヌの創作のように見事に愛のありようや人間との関係を筆にのせました。わずか二三六頁の新書ですが香気すらただよう名著です。2016/02/28
Tai
15
今道の示す愛は深く広い。友情、知識欲や宗教的情熱、表現欲、祖国愛。ソクラテスの少年愛は同性愛的関係ではなく、真の教育として青少年の精神的可能性に刺激を与え、力、学問、芸術を生み出す精神の孕み。愛するもの同士が相互に与え合う。受身でなく命を賭けて与える。自己犠牲から死へと繋がり他者の生命はよりよき生が満たされる。死に希望があり自己超越的生。愛はこの世ではなくこの世の至らなさに対して挑戦している。この世の無に対して戦いを挑む。人間がこの世の不完全な状態に満足せず、完全を求めて動いているその心の現れだと言える。2020/11/23
うずまきねこ
3
初刊行は30年以上前の新書。時代はどんどん技術化が進み、過程が捨象され、機能が抽象されているという。愛の対象は実体があってこそのものだという考えもあるようだが、人間同士の愛、殊に結婚生活における真実のそれは「その機能が破壊されたときに、なお、機能のもたらす富や力や喜びとは無関係に、抱きとめる姿」であるとする。ここに及んでは「性」も無関係とは言えないし、むしろその確認事項の一つとして考えることができるのかもしれない。「交接をとおして予約される愛」ということばが重く感じられる。2015/03/18