内容説明
日清・日露戦争後、全国で軍隊誘致運動が起こり、敷地の献納合戦にまで過熱した。地元への経済効果、水道・鉄道などのインフラ整備、遊郭設置問題などから、住民が軍隊と共存しつつ都市形成と振興をめざした姿に迫る。
目次
近代都市の中の軍隊―プロローグ
城跡と陸軍
日清戦後の軍備拡張
過熱する誘致運動
日露戦後の兵営誘致運動
陸海軍と鉄道ネットワーク
軍隊の立地と水道・「給養」
軍隊と遊郭
軍都のその後―エピローグ
著者等紹介
松下孝昭[マツシタタカアキ]
1958年、大阪市に生まれる。1981年京都大学文学部卒業。1987年、京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。現在、神戸女子大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
六点
77
90年代まで、軍隊施設と市町村との関係の研究はタブー視されていたそうであるが、その関係について切り込んだ本である。 明治初期から昭和に至るまで、時流に取り残された地方都市が、生産には寄与しないが消費は十分すぎるほどしてくれる軍施設の誘致に狂奔する姿は、「おらが町に新産業都市を」「大学誘致を成功させよう」とか「新幹線(高速道路)をわがまちへ」という姿と何ほども変わっていない。終章を読み、歩33が玉砕した久居市が、市を挙げて戦後33普連を誘致した事実に、人間の変わりなさを痛感したことであるよ。 2022/04/28
chang_ume
13
近代軍隊の設置をめぐる、地域社会の動向を詳しく。大部隊の駐屯は地域経済に多大な効果を生み、軍隊誘致の際は、地方から「献納金」が中央政府に供出されるまでに。加熱する誘致運動は、現代の原発や米軍・自衛隊にも通じますが、お金の流れが地方から中央という点が異なるかも。また「遊廓」と軍隊の関係も、近代遊廓の移転問題と絡めて語られる。たとえば近代福知山(京都府)の遊廓が猪崎新地に移転事例は、陸軍連隊の設置と連動していた。たしかに近代日本社会において、軍隊とは主たる「インフラ」だったとわかる。そしてそれは今も続く構造。2020/01/09
アメヲトコ
11
戦前の軍隊と地方都市との関係を考察した一冊。軍隊が来ることで消費人口が大きく増え、鉄道や水道などのインフラも整備される、そこに地方都市による軍隊誘致の動機があったとされます。現在の沖縄の基地問題が一筋縄ではいかない理由の一つもそこにあるのでしょう。事例も豊富で目配りも効いた内容で、兵営の門前には時計屋や写真屋が多いとか、四国では兵営付近の私娼は「うどん屋」を表看板にしていたとか、そうした小ネタも面白い。2016/07/02
らっそ
8
軍隊の編成がようやく理解できた。連隊が駐在することによる社会インフラの発展、経済効果、災害発生時の救援活動などなど、平時の軍隊は社会に溶け込んでいた2022/04/22
Takeshi Kubo
6
現代では、NIMBY(迷惑施設)とされることの多い、軍施設ですが、明治・大正期における日本においては、その逆の状況であったことが非常に興味深いです。 時代背景があるにせよ、軍隊の誘致に必死になっていた地方と、軍隊誘致により水道や鉄道といったインフラが飛躍的に整備されていったという一連の過程は、確かに日本の都市形成の歴史を追ううえで看過できない事実でしょう。2015/04/13