内容説明
武帝は、幸運の女神に導かれ、漢の第7代皇帝となったが、皇帝としてのスタートは順風満帆とはいえず、幾たびかの挫折を味わった。16歳の若き皇帝には十分な自覚も経験もなかったのである。しかし、武帝はその失意の中からたくましく成長し、漢を大帝国へと発展させていった。中国古代の皇帝支配は秦の始皇帝によって創業されたが、それを完成の域に高めたとされる武帝とはどのような皇帝であり、彼がめざした皇帝支配とはどのようなものだったのだろうか。
目次
秦皇漢武
1 呉楚七国の乱と武帝の即位
2 公孫弘の丞相就任と官界再編
3 側近官の登用と新たな皇帝支配の動き
4 武帝の死と領尚書事
著者等紹介
冨田健之[トミタケンシ]
1955年生まれ。九州大学文学部卒業。九州大学大学院文学研究科博士後期課程中途退学。現在、新潟大学教育学部教授。専攻、中国古代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
14
漢の武帝のリブレット。従来から注目されがちな対外戦争や財政政策ではなく、これらを可能にし、巨大な帝国を運用した官僚システム(著者曰く「皇帝官房」)の成立に着目した一冊。始皇帝の如き非凡な者でなくても、大帝国の統治者として皇帝が君臨できる体制を作り上げたところに、武帝の評価ポイントを置くのはなんとも刺激的で面白い。短い本だが、ハード面でなくソフト面で「始皇帝を超えた」皇帝として武帝を捉えており、新鮮である。2019/10/13
さとうしん
7
並みの皇帝のみならず、非凡な皇帝にすら不可能になりつつあった、巨大規模の国家を、「皇帝官房」(側近官僚群)によって統御していくという仕組みを作り上げた皇帝として、漢の武帝を再評価する。その論旨には批判もあるだろうが、吉川幸次郎・永田英正といった先人による武帝の評伝とは充分に差別化できている。2016/03/09
中島直人
5
(図書館)戦争ばかりしていたイメージがある武帝。その武帝を、その後300年続く漢王朝皇帝政治の基礎となる体制を作った存在として捉え直す。戦争と郡県制の全国展開により、個人の力では到底捌ききれなくなった漢帝国。そのため、皇帝を機関とし、皇帝を支える組織として尚書を構築することで対処しようとした。その転換は、武帝の意欲と力量と共に、54年の在位期間と匈奴討伐の実績に基く権威があって初めて可能となった。初めてみる切り口であり、興味深く読めた。2022/09/25
佐藤丈宗
0
従来は余慶と評されている、文帝・景帝期に進められた皇帝の中央集権化を「負の遺産」と解釈する見方は示唆に富んでいる。直轄地の急激な増加は統治のための事務手続きをも膨張させ、官吏の不足をも生む。こうした情勢から、武帝期に整えられた官僚機構を分析していくと、そのシステムは始皇帝がなし得なかった優れたものであった。副題「始皇帝をこえた皇帝」のとおり、似たタイプとみなされる始皇帝との対比によって武帝の姿を描く。対外膨張政策やそれに伴う財政危機の再建策ばかりが注目されがちな武帝論とは違う視点を与えてくれる。2016/03/01