感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
307
冒頭の告白「わたしは一人の男を殺そうとしている」にはじまる日記を最初に配した構成。この点こそが、本書の最大の特徴であり、また作家が工夫を凝らしたところ。そして、これをどう捉えるかで、ミステリーとしての評価も分かれるだろう。犯人当てという意味では、読者に迷いは生じそうもない。しかも、細部はともかく、トリックの最大の眼目も見え透いている。では、登場人物たちの魅力はといえば、主人公、探偵役ともに燦然たるとは言い難い。人物相互の関係性もまた濃密さには欠ける。こう書くと、酷評のようだが、面白く読めたのもまた事実だ。2016/05/27
セウテス
68
江戸川乱歩先生がつけた「野獣死すべし」とは、何と味のあるタイトルなのか。数多くのベストに名を連ねる、正に傑作だと思う。前半は息子を轢き殺した犯人に、復讐を誓う父親の日記となっている。哀しみ憎しみ様々な感情を繊細に描き、犯人を推理し自力で探り当てる迄の何とも言えない思いが胸に残る。中盤からは一転、シリーズ探偵のナイジェルが登場しての本格ミステリーである。前半のサスペンスを生かした綿密な設定、要所をしめる人間関係の魅力的な描写がぐいぐいと惹き付ける。読者の予想を裏切る展開に、ラストの情景は映画のシーンの様だ。2016/04/24
ペグ
67
わたしが読んだこの本の表紙が読メの書影と違っていて、そして題名からてっきりハードボイルドかノワールかと。全くの思い違いをしていました。たとえばジェームス サリス(ドライブ)とか。推理小説としても安定の作品で。最初の日記部分は後々効いてくる仕掛けが面白い。意外と軽かったけど文章が美しく今までと違った印象の探偵ナイジェルも魅力的で、少し追っかけてみようと思ってます(^_^)v2017/11/09
NAO
58
「わたしは一人の男を殺そうとしている」という冒頭から、まさに復讐劇が行われんとするときまで緊迫感が高まっていったところでの予想外の出来事と、悄然とフィリクスが去っていったあとに起きた驚くべき事件。この展開は、ゾクゾクするほど巧みな構成となっている。『野獣死すべし』という言葉にはフィリクスの強く激しい怒りが込められていて、冒頭の一文でぎょっとさせられるものの、一見ハードボイルド的な題からはちょっと予想できない繊細な内容、特に愛息子を亡くした父親の心理描写が見事だと思った。2016/03/12
harass
57
ガーディン紙の1000冊に挙げられているというだけで手に入れた積読消化。前情報皆無で読み出す。題名や表紙からハードボイルドと連想し、復讐者の日記から始まるのでハードボイルドで勝手に確信していると、途中で推理ものだと気がつき驚く。慌てて解説をみるが植草甚一にさらに驚く。1938年の作品だそうだ。個人的に、推理ものは醒めて読んでしまう。仕掛けやコードが邪魔に感じて白けるというか。詳しくは知らないがこれは歴史的に名作なのだろうと理解できるのだが。2017/05/29