出版社内容情報
見習医と施療一筋に生きる医長“赤髯”の心の交流と成長を描く、医療小説の最高峰『赤ひげ診療譚』。下町人情物の『おたふく物語』。
たとえ、それが徒労だとしても――。「脚注」で、さらに深まる物語の味わい。心ならずも養生所の見習医となった保本登は、“赤髯”と呼ばれる医長の強引さに反発し療養施設での医療に戸惑う。しかし、一見乱暴な言動の裏に秘められた赤髯の信念を知りしだいに真実を見る眼を開かれていく……。黒澤明監督による映画化でも知られる医療小説の最高峰! 下町人情が胸に沁みる『おたふく物語』を併録。
内容説明
幕府の御目見医になるために長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の医長“赤髯”こと新出去定に呼び出され、見習医としての勤務を命じられる。強引な赤髯に反発し、療養施設での医療に戸惑う登だったが、一見乱暴な言動の裏に秘められた赤髯の信念を知り、貧しい人々と触れ合ううちに、しだいに真実を見る眼を開かれていく…。黒澤明監督による映画化でも知られる、医療小説の最高峰。底抜けに明るく、どこまでも善良なおしずを描く『おたふく物語』を併録。“脚注”で、さらに深まる物語の味わい。付録・主要登場人物一覧、地図。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ノシメとんぼ
5
途中までしか読めていなかったので初めて完読。結末を書ききらずともその先を自分で想像できる小説は何冊もあるけれど、この小説のどの話も、書ききらずとも自分で想像しなくて良いという風に感じるような、ある種さっぱりした読後感だった。時代小説にしてはかなり読みやすくて、慣れてない自分としても楽しく読み終わることができた。2020/05/20
ひより
4
ちと怖いが熱心な赤ひげ先生と、その養生所に入れられ、イヤイヤ勤めていた登。 登がある時からきちんとするのがほほえましい。 「おたふく物語」は、苦労を重ねてきた姉妹が、それを感じさせない明るさをふりまいていて、彼女らに幸あれと願うばかり。 ★32023/02/07
みけのすずね
4
山本周五郎氏の全集から。赤ひげ…幕府の御目見医を目指していた登だが、庶民の療養所で去定の見習医をすることになる。病との戦いについてではなく、貧困の中で庶民が苦しむ事情や事件に巻き込まれながら、真実を知っていても徒労に終わる事の多い仕事を引き受ける覚悟をしてゆく登の物語に引き込まれた。温床でならどんな芽でも育つ、氷の中ででも、芽を育てる情熱があってこそ、しんじつ生きがいがあるのではないか。おれはここに残るよ。仁術どころか、医学はまだ風邪ひとつ満足に治せはしない。おまえはばかなやつだ…一人一人の心構えが大切。2020/03/22
訪問者
4
百年文庫で読んだ「山椿」に衝撃を受け、山本周五郎を読み始める。有名な「赤ひげ診療譚」はよく読んでみると幼児虐待とかBLとか、あるいは社会の貧困という極めて現代的なテーマを持つ作品であるが、話の根本は青年医師保本登の成長物語である。個人的には最終話の「男なんてものは、いつか毀れちまう車のようなもんです」というセリフが胸に突き刺さった。また、同時収録の「おたふく物語」も傑作。2017/04/17
マウンテンゴリラ
4
二編とも、それを表現する言葉が出てこないほどの感動を覚えるとは正にこの事か、と思えるほどのさすがの名作であった。山本周五郎の作品はこれまでも素晴らしい感動を与えてくれたが、話の粗筋さえ忘れてしまったものもある。そんな私にとって打って付けのシリーズがこの長編小説集であった。全二十六巻の読破が出来るかどうかはわからないが、それに取り組む価値は十分にあると感じた。気のせいかもしれないが、近頃、著者の作品が、多くの人に読み直されているのではないかとも感じる。→(2)2016/06/03