内容説明
原発事故で避難した母子の生活が困窮している。政府は、いわゆる「自主避難者」への住宅無償提供を二〇一七年春に打ち切る。子どもを守りたい一心で避難した母親たちが、事故から五年経った今、何に不安を感じ、困り、苦しんでいるのか。事故後、避難した母子に寄り添い続ける著者が、克明に綴る。
目次
第1章 地震直後―迫られた選択
第2章 避難生活―劣悪な環境
第3章 夫―一人残されたとき
第4章 作られていくしくみ―被害の矮小化のはじまり
第5章 なぜ避難者支援が不十分なのか
第6章 帰還か、避難継続か
第7章 消されゆく母子避難者
著者等紹介
吉田千亜[ヨシダチア]
立教大学文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーライター。東日本大震災後、放射能汚染と向き合う母親たちの取材をつづけている。原発事故と母親を取材した季刊誌『ママレボ』、埼玉県に避難している人たちへの情報誌『福玉便り』などの編集・執筆に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
291
「棄民」―自主避難している人たちが自分たちをこう規定せざるを得ないのが現状のようだ。そもそも「自主」避難とはいうものの、避難を余儀なくされているのであって、好き好んで避難しているわけではない。しかも、どこからどこまでが帰還困難地域と国は線引きをするけれど、そこには明確な根拠はない。なにしろ、それまで年間被ばく線量は1ミリシーベルトが上限であったものが、突如20倍に引き上げられるのだから。国民の命と健康を守るはずの厚労省は復興庁の顔色をうかがい自治体は国に従うなど、5年たった今も状況は全く改善されていない。2016/04/11
美登利
90
震災関連の本は何冊も読んできました。テレビなどで放送されなかったことを本で多少知ることができました。最近では、それらの内容もねつ造されたのでは無いかと囁かれているようですが、被災地が復興するのは本当にいつなのか?原発から少し離れた場所に住む人々が国や県にむげに扱われるさまが悲しくて。それを知らなかった自分も情けないです。まだ隠されている事が多く、あと少しで何もかも無かった事にしようと東電と国と県とが企んでいるのでは無いか、被災地の人間で無くてもそう感じてしまいます。みんな帰りたくても帰れないんだ!2016/03/27
おかむら
45
原発事故の影響を恐れて自主避難してる家族(母子)たちのルポ。「我が儘」や「気にしい」のようなイメージもあったのですが、今もって汚染の実態がつかめてない(国は信用できんしネットも信用できん)のでは、ナーバスになるのはとても理解できた。そしてナーバスの度合いで夫婦間がギクシャクしていく事例はなんとも言えない気持ちに。一方で自主避難が出来ない、しない家族の方が当然多いと思われるのでそちら側の事情もルポして欲しいものです。2016/05/27
けんとまん1007
40
中に出てくる「棄民」という言葉がすべてを物語る。まさに、今のこの国の在り様を表している。復興という言葉も、それぞれの立場で使われ方・意味合いが全く逆になっている。あったことを無いことにしようとしている政治屋・官僚の姿が滲み出てくる。一人の人としての在り様が問われていると思うのだが、全く意に介しない姿勢。生きる、将来に向けて生きるという基本的なことすら蔑ろにされている人たちの存在は、忘れてはいけない。2020/03/15
あやの
40
郡山の近くでありながら放射線量が低めだった私の市では避難する人は少なかった。私も避難は考えなかった。でも、今でも心に引っ掛かるのは、3月18日頃、暇をもて余して泣く当時6歳の娘を散歩に連れ出して30分くらい外を歩いたこと。その後の甲状腺検査でも何も異常ないからほっとしてるけど、何かあったらずっと後悔したんだろうな。避難した人たちも子供を守りたいという一心で行動したのは分かる。それなのに援助を受けられず孤独を強いられる。だけど、これを読むと避難しなかった自分が責められてる気もする(そんなはずないんだが)。2018/03/04