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オーストラリアを知るための55章 (第2版)

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  • サイズ B6判/ページ数 324p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750321929
  • NDC分類 302.71
  • Cコード C0336

出版社内容情報

多民族・多文化が共生する、世界史上でもユニークな新世界国家オーストラリア。政治、経済、文化、民族、対アジア関係の分野をとおして掘り下げ、辺境開拓期からこの国の背景に流れる気質を読み解いていく。読み物としても楽しめる詳細なエピソードが満載。

はじめに
序章 小型の多民族社会――マイトシップから文化多元主義へ
1 政 治
 第1章 立憲君主制から共和制へ――なぜ複雑な順位指定連記投票制をとるのか
 第2章 共和制運動――発生の背景と最初の共和派
 第3章 ヘンリー・ロースン――共和派のシンボル
 第4章 共和制移行への動き――政治生命をかける保革両陣営
 第5章 国民投票――涙をのんだ共和制運動
 第6章 革新政権が「保守革命」断行?!――共和制挫折以後の停滞とその歴史的背景
 第7章 「安定の大いなる神」ナンバー2――オーストラリア荒廃の秘密とは?
 第8章 ANZAC――第一次世界大戦の敗北が聖戦に
 第9章 復員兵士連盟――なぜガリポリだけが脚光を浴びるのか
2 経 済
 第10章 地下資源のナショナリズム――宝の上で羊を飼っていたオーストラリア
 第11章 ジョーゼフ・グトニク――「地下資源のナショナリズム」を変質させたユダヤ系鉱山王
 第12章 ルパート・マードック――オーストラリアを越えたオーストラリア人
 第13章 メディア戦争――フェアファックス家vsマードック
 第14章 ソフト獲得――マードック最新の母国侵攻
 第1イン事件――勝敗に表れる国民性
 第28章 勝てない英国――ラグビー、サッカー、テニスも
 第29章 フットボール――オーストラリアン・ルールズはなぜ興奮させるのか
 第30章 T・W・ウィルズ――今日のオジー・ルールズを確立
 第31章 メルボルン・フットボール・クラブ――スキピーズvsワッグズの時代へ
 第32章 AFLの覇権争い――メルボルン勢の衰退と他州勢の台頭
 第33章 2000年のシドニー・オリンピック――「疑似独立」再び、そしてマイノリティのガス抜き装置
6 民族のサラダボウル
 第34章 アボリジニ――アウトバックと都市との違い
 第35章 ハワード政権下でのアボリジニ――先住民、社会主流化抜きでの文化的自立?
 第36章 アングロ=ケルティクス――英国系、アイルランド系の対立と共存
 第37章 政界民族地図――ゆるやかな対立構造
 第38章 ロバート・メンジーズ――スコットランド系の典型的な大物政治家
 第39章 さまざまな民族集団――社会主流化度の差と母国での対立の輸入
 第40章 移民同士の対立――クロアチアvsセルヴィア、ギリシャvsマケドニア
 第41章 ギリシャ系――イタリア系との競でもなしには生きていけない
 第54章 儒教圏アジアとの共存――独裁者の隠れ蓑でない「アジア的価値」の創出を願う
 第55章 日米との共存――日本企業撤退と高い米国依存

はじめに
 私が一九七九年から八〇年にかけて一年間、シドニー大学の客員研究員としてオーストラリアで暮らすと言うと、同僚の一人が「ああ、そりゃもったいない」と言った。彼は、〈オーストラリアなんて三カ月もいれば十分〉と言いたかったらしい。
 一方、中世英語の研究者には、オーストラリア、カナダ、アメリカなどの人間が多いという。ある日本人の中世英語研究者によれば、彼がオックスフォード大学で中世英語の勉強をしていたとき、「あんたの国には立派な中世があるのに、なぜ外国の中世なんか研究するんだ?」と絡んだのが、オーストラリア人の研究者だったという。
 オーストラリアを初め、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどのいわゆる英語圏の新世界諸国には、中世がなかったので、中世英語の研究者の大半がこれらの国々から出てくるらしいのだ。しかし中世がなかったからこそ、「新世界国家」という、世界史上でも極めてユニークな立場を手に入れたのではないか。「歴史とは私がさめたいと願っている悪夢です」とは、ジェームズ・ジョイスの主人公スティーヴン・ディーダラスの言葉だが、その重要な「悪夢」の一角が欠けているからこそ、これらの国々は世界史の動向をとを記憶している。私は中世を忌避するくせに、アボリジニらがいまだに体現している新石器時代には既視感を抱くらしい。妻に話すと、「前世はアボリジナルだったのかも」と言われた。
 私はもともと、アメリカを覗く別のレンズとして、遅れてきた英語圏の新世界国家オーストラリアを利用してきた。本書でも両国の比較軸はかなり活用してある。しかしこの比較軸は、辺境エートス(フロンティア・スピリッツとマイトシップ)、マーク・トゥエインとヘンリー・ロースン、ジェシ・ジェームズとネッド・ケリーなど、ほぼ一九世紀までで終わり、後はかなり異質な両国に変わる。
 それでも、世界を〈収容所国家〉と〈避難所国家〉に二分すると、明らかにオーストラリアは最大の避難所国家アメリカと同じ範疇に入る。だからこそ米豪両国は多民族社会化したのだ(本書の4「民族のサラダボウル」)。
 二〇世紀に日本が大きな被害を与えたアジア諸国の人間と日本で出会っても、彼らの母国で出会っても、きなくさいものが漂うのが常だが、オーストラリアやアメリカが介在すると、きなくささが中和される。
 例えば、金東豪(キムドノウ)との出会いがそうだった。彼は九歳まで日本で暮らし、そのの金は、本当に活き活きとした顔をしており、〈日本ではこうはいかないだろうな〉という気がした。
 金東豪と出会ったのが六本木のオーストラリア外交官邸だったことは象徴的だろう。正確には、私たちは偶然、彼が私の前を歩いて、その邸でのパーティに向かっていたのだ。デニムの上下に秋葉原で買った電気製品の箱を抱えた彼は人目についたのだが、その彼が同じ邸に入っていったのである。彼はオーストラリア政府から自作の映画化の助成金をもらい、なんとあの黒沢明を監督に、と交渉にきてついえ、電気製品を買って失意の帰国の前にパーティに現れたのだった。
 トラブルスポットのアジアで避難所国家オーストラリアの果たす役割の微妙さが、金東豪とのエピソードに濃厚に表れている。
 本書はエッセイ風の書き方ができない体裁になっているのだが、五五章の全てに、以上の私の思いや見方がこめられていることだけはご理解願いたい。初版は、二〇〇〇年に『オーストラリアを知るための48章』と銘打って刊行された。今回、必要箇所をアップデートして、『オーストラリアを知るための55章』として再刊されることになった。
 書き上げておきながら、紙数の関係で割愛せざるをえなく

目次

1 政治
2 経済
3 ブッシュ・カルチャー
4 ビーチ・カルチャー
5 スポーツ・カルチャー
6 民族のサラダボウル
7 アジアとの共存

著者等紹介

越智道雄[オチミチオ]
1936年愛媛県生まれ。明治大学教授。城西大学大学院非常勤講師。2006年度からフェリス女子大学・中京大学各大学院非常勤講師。日本翻訳家協会評議員。主に米豪の比較文化を軸に、1960年代カウンターカルチャー及びその延長として文化多元主義の研究に従事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。