内容説明
治承四年、平家の南都焼打ちで、日本国の護国寺・東大寺は焼失した。この類い稀なる難にあたり、時に六十一歳の僧・重源はたつ。志の実現こそを最大目標とし、“悪”とも結ぶリアリストとして、以来二十五年、乱世をまたにかけた謎に満ちた男の生涯を自在に描いた渾身の作。
感想・レビュー
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ムカルナス
9
平家の南都焼き討ちで焼失した東大寺の再建に尽力した重源の伝記。渡宋経験があるとはいえ高僧でもなく当時既に61歳の重源は自分の栄誉を求め当時誰もが不可能と思っていた事業に86歳で亡くなるまでの生涯をかける。同時期に焼失した興福寺は藤原氏の氏寺で国家予算が注ぎ込まれたのに対し東大寺は捨て置かれた状況のなか、重源は時の政権を利用し、勧進帳の宣伝を行い、寺社勢力も巻き込み再建を進める。普請を行う僧侶というよりは事業家であり策略家でもある。乱世の時代に現れた稀有な人物・重源なくては今の東大寺はなかっただろう。2019/01/24