出版社内容情報
零落した貴族の館にあってひたすら孤独と無為の日々をおくる青年ジャン.過去の世界を夢見て生きつづけようとする彼は,やがて深い血のつながりと宿命につき動かされ,自分と同名の先祖が百五十年前にはたせなかった恋を受け継ごうとする…….荷風が心酔した黄昏の詩人レニエ(一八六四―一九三六)の傑作小説.
内容説明
零落した貴族の館にあってひたすら孤独と無為の日々をおくる青年ジャン。過去の世界を夢見て生きつづけようとする彼は、やがて深い血のつながりと宿命につき動かされ、自分と同名の先祖が150年前にはたせなかった恋を受け継ごうとする…。荷風が心酔した黄昏の詩人レニエ(1864‐1936)の傑作小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
午後
4
ある者は生きている過去に、次第に力を増し精彩を帯びていく過去に苛まれ、またある者は自らの激しさをそこに託し、嵐からの隠れ場所としていた過去が死んでいくのを目の当たりにし、ある者は現在の生を愛し未来に向かって謳歌する。生きている過去、よみがえる過去、隠れ蓑としての過去死んでいく過去、忘却の淵に沈んでいく過去…あとがきにもあるが、人物ごとに異なった色合いや表情を見せるこの過去こそが、この物語の主役だったんだと思う。カサノヴァの回想録やスタンダールのローマ散策を絡めたイタリア旅行のシーンがかなり筆が乗っている。2019/03/06
dilettante_k
3
原著1905年。19世紀末フランス。旧宅の維持に汲々とする父に結婚を迫られる夢見がちな没落貴族ジャンと平民出身ながら大革命以前の古物を愛する好事家ロオブロー、そして貴族の身で優れた実業家として活躍するモーリスら3人が辿る人生の交錯を描く。過去と短絡する狂気、過去と決別して得ようとする愛、そして過去を踏み台に掴む未来の栄光。それぞれが体感する「過去」を人物やモノに絡めて巧みに織り込みつつ、貴族の衰微と資本家の台頭という時代の変遷を踏まえ、カタストロフまで高める展開が見事。描写中毒に陥らない冷静な筆致に好感。2015/03/19
...
0
1900年始めの作品にしては、主人公が燃え尽き過ぎじゃないだろか。作者がフロベールなどを好きだったのが影響かしら。2015/09/16
ocean
0
大革命以降零落しつつも誇りは失わない貧乏貴族、新進のブルジョワたちに伍して事業に進出する貴族、平民出ながら革命前の貴族の文化に憧れ貴族たちからも信を得ている研究家、依然として莫大な財を誇っている貴族・・・19世紀末頃のパリの貴族社会の主に恋愛模様を描いてなかなか興味深い小説です。 粗野なブルジョワ文化を蔑視し18世紀のフランスやイタリアの爛熟した文化を至上のものとする観点が中心にある作品。ですが一面的に描いているわけではなく、多様な登場人物の多様な恋愛模様の中で、新たに生まれ出ているものの活力、逞しさを好2012/05/04
保山ひャン
0
1905年、20世紀初頭の作品。物語の大半は18世紀好きの登場人物たちが、現代的なもののつまらなさを嘆き、大好きなカザノヴァの聖地巡礼をしたりする。遺産相続のいざこざや縁談のいざこざを経て、いよいよ本題。自分達と同名の先祖の悲恋を現在で達成しようとする流れは物語最後の4分の1くらいでやっと出て来る。「僕達、運命の二人なんだ!」「えっ?(まあ、いいか)」「やっぱり僕達間違ってた!」「はぁ?」「あー!もうやぶれかぶれだー!」「はぁ〜?」みたいな話。18世紀を愛惜してやまない描写は共感しきり。2021/09/23