生きているヒロシマ

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  • サイズ B5判/ページ数 164,/高さ 27cm
  • 商品コード 9784806756019
  • NDC分類 748

出版社内容情報

国際的にその問題追及力を高く評価された「ヒロシマ」と、その後の広島を撮影した「憎悪と失意の日日」を、土門拳自身が新しく構成しなおして完本とした。
原爆の爪痕……被爆者たちの現実をそのまま写真に切り取った衝撃の写真集。

【書評再録】
●毎日新聞評(1978年8月4日)=写真の世界を代表する一人、土門拳さんが写した広島の被爆者のフィルムが集大成された。33年、後遺症に苦しむ被爆者の実像を発表して衝撃を与えた「ヒロシマ」をベースに、10年後の43年、再び広島で写した胎内被爆者の成長した姿など、未公開のフィルムを加えた“決定版”。
●日本経済新聞評(1978年7月17日)=世界に向けての一つのアピール。「日本人の考える問題いや世界の人が考える問題を提起する」書物だが、同時に写真の表現が持つ社会性の問題や、写真家・土門拳を考える上でも重要な書物といえそうだ。
●共同通信全国配信記事・信濃毎日新聞、神戸新聞ほか(1978年8月8日)=“冷徹なカメラアイ”とも“温かいヒューマニズム”とも違う、日常の事実が在る。
●北海道新聞評(1978年8月8日)=運命の日から33年の歳月が流れたが、この写真集が訴える被爆者たちの“痛み”は、歳月を超えてひしひしと伝わってくる。
●週刊読売評(1978年9月30日号)=風化を許さないヒロシマの記録である。
●夕刊フジ評(1978年8月15日)=全世界に原水爆禁止を訴える、貴重な記録写真集である。
●朝日カメラ評=世界の人々に大きな感動を与え、原爆問題へ一つの提言を投げかけた。事実を伝えるだけに終わらず、真実を訴えかけて止まない感動の記録である。
●カメラ毎日評(1978年9月号)=職業写真家土門拳が「商売」のために撮影に行ったヒロシマで「商売」からはみだして、使命感に支えられて撮影したものだけあって、すぐれたヒューマン・ドキュメントである。
●図書新聞評(1978年8月26日)=初めて見る者にとってはもちろんだが、かつて被爆者の悲惨な姿を写真で見て知っている者にとっても、土門拳のこれらの写真は直視できないほど、痛ましく衝撃的である。20年前に撮影されたものだが、今日でもなお、重く、切実たるものがあることを感じさせずにはおかない。人間としての使命感と執念の強さを感じさせる写真集である。
●日本読書新聞評(1978年9月11日)=被爆者たちが「もの」としてではなく、より「人間」として撮られていることに感動せずにはいられない。

【内容紹介】本書「はしがき」より
 ヒロシマはようやく完本になった。1958年にだした「ヒロシマ」と、その後、撮影した「憎悪と失意の日日」を、今日的な立場から新しく構成したのが、この「生きているヒロシマ」である。
 前半でとりあげた人びとは今日から数えると二十年前になる。だから「ヒロシマ」の人びとは殆ど生存していることが望めないほど縹渺たる遠い過去になったのである。何遍も何遍も瘢痕植皮の手術を繰り返しては、如何に頑健な人でも今日まで生きていることは望みがたいように思われる。
 しかし「憎悪と失意の日日」にとりあげた人びとは、恐るべき頑健さをもって瘢痕植皮の手術にもたえるし、陰陰たる白血病にもめげず今日なお健康な人にも負けず頑張って生きているのだ。
 ぼくはこの人びとを思うとき、病苦にたえる根強い精神力を尊敬せずにはいられない。こういうように写真が一枚、二枚、載ることすら精神的にたえがたい汚辱を感ずるであろう。しかしこの人びとはそんなことは屁ともしない根強い生活力を今日なお、もっていることを、ぼくは祈らずにはいられない。
 被爆者はあと何人残っているであろうか。一年、二年、その数は年々少なくなっていくであろう。何故ならば、人は病気によっても命を失っていくのだ。何年後には被爆者は何人というほどになるであろう。それは目に見えている事実だ。その被爆者が如何に少なくなろうとも、この「生きているヒロシマ」一冊にもられた事実は、もはや何年たとうとも消えることはないであろう。憎悪と失意の日日は、いつまで続くのであろうか。ああ。

【内容紹介】本書「はじめてのヒロシマ」より
 1957年7月23日午後2時40分着の急行「安芸」で、ぼくは生まれてはじめて広島の土を踏んだ。
 「週刊新潮」のグラフを撮りに行ったのだった。職業写真家であるぼくは、いわば「商売」のひとつとして行ったのだった。その限りにおいては、ぼくが広島へ行ったことなどは、なにも取りたてて言うほどのことはない。ただその後に、カメラを手にする人間としての、使命感みたいなものに駆り立てられて、憑かれたように広島通いすることになったという点で、またその結果こういう本を出すことになったという点で、その日はぼくの生涯にとって忘れがたい日となった。
 広島に原爆が投下された1945年8月6日は、それ自身として明白な過去である。ぼくたち自身も「ヒロシマ」は、もはや過去のこととして忘却の彼方に置いてきた。なぜなら、現代に生きるぼくたちは、マス・コミュニケーションの中に含みこまれてしか、ものを知らされることも、ものを考えることもできなくされているからである。13年前の古い出来事である「ヒロシマ」は、今日ただ今のなにかに結びつかない限り、今さらマス・コミュニケーションの中に姿を現わすことはない。かりに月に1度か2度「原爆症でまた死ぬ」という見出しが新聞の社会欄に小さく出ていようと、その「広島初」の数行のニュースからなにが読みとれるというのか。ながわずらいの病人がついに死んだとて、大した不思議はない。ただそれが原爆症だったというだけではないか。それは「またか」と思わせるだけで、その数行のニュースが意味する「現実の重さ」を読みとるなんの手がかりも、ぼくたちには与えられていなかった。
 その上、ビキニ環礁、エニウエトック島、クリスマス島、ネヴァダ、シベリアと相次ぐ大規模な原水爆実験、原子力発電、大陸間弾道兵器、人工衛星などのニュースは、13年前の「ヒロシマ」などは、いよいよもって素朴きわまる「原爆の古典」に追いやってしまったのである。歴史の大きな激動を反映するマス・コミュニケーションに巻き込まれて、ぼくたち自身が「ヒロシマ」を忘却のかなたに置いてきたとしても、なんの不思議もないかもしれない。
 しかしぼくは、広島へ行って、驚いた。これはいけない、と狼狽した。ぼくなどは「ヒロシマ」を忘れていたというより、実は初めからなにも知ってはいなかったのだ。13年後の今日もなお「ヒロシマ」は生きていた。焼夷弾で焼き払われた日本の都市という都市が復興したというのに、そして広島の市街も旧に立ちまさって復興したというのに、人間の肉体に刻印された魔性の爪痕は消えずに残っていた。それは年頃になった娘たちの玉の肌に、消せども消えないケロイドとして残っていた。それは被爆者の骨髄深く食いこんで、造血機能を蝕み、日夜、数万の人びとを白血病の不安にさいなんでいた。それは13年前の被爆当時よりはむしろ陰険執拗な魔性を人間の上にほしいままにしていた。
 「ヒロシマ」は生きていた。それをぼくたちは知らなすぎた。いや正確には、知らされなさすぎたのである。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

とよぽん

21
ヒロシマに生きる人々の、原爆によってもたらされた様々な苦しみ、理不尽な処遇、怒り、不安・・・。それでも、皆助け合って生きている。生きていく。写真の訴える力を感じた。2019/04/17

モリータ

9
◆1978年刊。1958年刊の『ヒロシマ』と1968年撮影・未刊の『憎悪と失意の日日』をあわせて構成したもの。◆大阪府立大学の図書館で久しぶりに読む。祖母の家の母の本棚にあったこの写真集を『筑豊のこどもたち』とともに小さい頃から繰り返し目にしていたのだが、家を片付けるときに引き上げなかったのが悔やまれる。◆「梶山健二君の死」は写真も文章も当時から忘れられない。2019/04/10

mitam

7
今更ながら。土門が広島に行くのを怖がっていたという経緯を別の本で読み、「なんだ結局雑誌の仕事がなければいかなかったのか」などと思っていたが、いざ読んでみて写真の力に圧倒された。文章も、土門が広島・長崎に無関心でいたことを正直に語っていて力強い。被爆者をひとくくりにせず、老若男女を切り分けていく構成にもヒューマニズムを感じた。「13年経っても終わっていない」という書き方をしているが、60年が経った今、「73年経っても終わっていない」という書き方が毎年されてきていることについて土門はなんと言うだろうか。2018/08/06

しーちゃん

3
写真はこんなにも物語るものなのか。まるで、ドキュメンタリー映画を見ているかのようだった。被爆後のケロイド治療、戦災孤児、スラム、日常。私たちが実際にはもう見ることのできない世界。苦悩の中にも、こうやって生きて、復興してきたのか…と圧倒される。被爆者の方が少なくなっている今、自分に何ができるか改めて考えたい。2021/08/17

サクラ

2
何年経っても決して忘れてはいけないこと。私ごときに何が言えるだろう…辛い、辛すぎる。でも、大事な事。今すぐ戦争を止めたとして、何十年人は苦しみの中で生きていくのだろう。まだ、先の大戦の痛みも癒えてないというのに2023/08/16

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