内容説明
私たちは今、国境をたやすく越える時代に生きているように思える瞬間がある。インターネット、ヨーロッパ連合、多国籍化した企業やスポーツ…。だが他方で、血で血を洗う民族紛争や宗教対立がいっこうに跡を絶たない。それに国家エゴをむき出しにした、果てしない軍拡競争。国民国家やナショナリズムは近代の産物であり「想像の共同体」にすぎないという説があるが、はたしてそんな単純なものだろうか。近代国民国家形成のあしどりを、今一度歴史にさかのぼって考え直す。
目次
スポーツのなかの国家と国民意識
十九世紀ヨーロッパの国民国家形成
国民統合の苦悩
国民統合のモデル国民国家論をめぐって
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(haro-n)
33
1999年に書かれたものなので、時事ネタがやや古い(ジダンの出自など)が、欧州の国民国家成立の過程とその多様性を独・仏・英に絞り具体的に検証する。アンダーソンの『想像の共同体』を踏まえ、本当に「想像」の共同体なのか?問いかける。学校や教会等の形で様々な装置を経て実体化される過程、又、皮膚感覚で国民意識を抱く人々のその意識の根っこにある歴史的記憶について説明していく。アイデンティティが複数の次元に分散化されることが衝突を避ける鍵であるようだ。国民国家レヴェルの分権化のためには、 トランスナショナルな結合体↓
venturingbeyond
23
目前に迫った歴史総合の授業スタートの参考にと、慌てて購入し、一気に読了。近代国家の形成過程における「国民」の創出、ナショナリズム勃興の過程を、ドイツ、フランス、イギリスの3国に焦点を当てて概説。俗流の「国民は、歴史的に創造・構築されたもの」との乱暴なまとめを回避し、「伝統の創造」のための記憶の動員には、歴史的体験の共有ないし文化的類似性という「受け皿」が必要であると説く。2022/04/14
八八
8
もはや国民国家とは何か?という議論は当たり前のようになされている。その火付け役はB・アンダーソンの『想像の共同体』である。本著はナショナリズム研究に一石を投じ波紋を巻き起こしたアンダーソンの議論に問題意識を持ちながらドイツ、フランス、イギリスを比較しナショナリズムと国民国家について論じている。著者はアンダーソンよりもスミスの方を支持しているようだが、アンダーソンの議論は誤解されていると擁護する。ナショナリズムや国民国家論の入り口としてよく纏まっており、そこからアンダーソンやスミスに入る方が良さそうだ。2020/06/29
keint
8
ドイツ・フランス・イギリスの三国の歴史に言及しながら、それぞれの国における国民国家の形成過程とその実情について解説している。時事ネタが古いことを除けばナショナリズムを簡潔に説明している。2020/03/21
politics
5
ナショナリズム論の二つの理念型の代表格であるドイツ、フランスの国民国家形成の来歴と、それとは異なるイギリスの形成過程を簡潔にまとめた小冊。アンダーソンの「想像の共同体」論と国民国家幻想論との差異の指摘は今なお重要だろう。またドイツ・モデルとフランス・モデルのどちらの型を選択すべきかでなはく、如何に両モデルを取捨選択して他民族と共存して国民国家を維持していくかを考察していくべきではないか。2024/01/27